大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和25年(う)571号 判決

被告人

山下敏雄事

崔東起

主文

本件控訴を棄却する。

当審に於て生じた訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人松井鏗爾の控訴趣意第一点について。

監禁とは人が一定の区域から出ることを不能又は困難ならしめることであつてその手段の如何を問わない。故に人をして一定の座敷中より脱出すること能わざらしめるに当りその手段は必ずしも物的施設を要するものではない。今本件に於ては、被告人外三名は共謀の上判示日時被害者二名を判示場所に連行し二階表七疊半の座敷に於て被害者両名の面前又は座敷の入口等に座して、同人等の意に反してその脱出を数時間に亘つて不能ならしめたというのであつて、此の事実は原判決挙示の証拠により充分に認め得る。されば原判決は事実誤認の疑なきは勿論不法監禁罪の説示として何等欠くるところはない。論旨は理由がない。

(弁護人松井鏗爾の控訴趣意)

一、原判決はその理由に於て被告人崔碩起及崔東起の両名が近藤茂照及渡辺三生の両名を被告人等の父崔成録所有の自轉車の窃取犯人であるとの嫌疑をもつて詰問する爲に右録方二階の座敷に連行して「右両名の脱走を防止し」「同人等を座敷に不法に監禁し」と判示して居るがこれは事実を誤認したものである。

右判決は何に拠つて監禁の事実を認定したものであろうか、論旨は飛躍して「脱走を防止し」と云ひその理由は少しも明かにされて居ない監禁とは一定の区域外に出ることを不能又は困難ならしめることであるが右近藤及渡辺の両名並に被告人等の供述によつて判定し得らるることは次の諸点である。即ち

第一に被告人等が近藤渡辺の両名を右録方の二階に連行した目的は窃取された自轉車を取り戻そうとするにあつたので連行には暴行脅迫等を伴はなかつたこと、そして録方の二階座敷に上げたのはそこが話をするに最も適当な場所であつた爲であり特に近藤、渡辺両名の脱出を困難ならしめるような設備があつたわけでは無いこと。

第二に座敷に上つてから最初の間は被告人崔東起一人丈にて右両名と話し合つて居たのであるが後程崔碩起等三名が這入つて來て座つたこと、そしてその座つた位置は階段の附近や隣室の敷居ぎわなどであつたがそれは右近藤、渡辺の脱出防止を意図したといふよりも夫々が適宜の位置に座を占めたと見るべきであること第三に被告人等は近藤、渡辺の両名が自轉車を窃取したものと信じ居り又近藤、渡辺の言にも辻妻の合はぬ点があつた爲その追及に長時間を要したのであるがその間被告人等に於て近藤、渡辺両名の脱出を暴力又は脅迫等によつて防止したと云ふ事実は無かつたこと。

之を要するに被告人等の所爲は盜まれた自轉車を回收する爲に近藤、渡辺の両名を録の家に連れて行つて追及したといふに止まり之を以て不法監禁の事実ありと断じたのは事実を誤認せるものと信ずる。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例